ARコート(反射防止膜)の豆知識「反射率特性と層数」
表面反射を低減するARコート(反射防止膜)。その反射率特性(性能)は様々なため、よくお問い合わせをいただきます。また、「ARコートは1層(単層)ではないのですか?」「何層コートされているのですか?」「どんな材料を使用しているのですか?」といったお問い合わせもよくいただきます。今回は、このようなお問い合わせの回答として、ARコートの層数と反射率特性の関係や種類、ARコートに使用する材料についてお伝えしていきます。
ARコートをご検討される場合のご参考にしていただければと存じます。
1. ARコートの原理、層数について
ARコートの原理は、以下の「反射防止の仕組み」のイメージ図の様に光の干渉を利用しています。基材とコーティング界面の反射光(裏面反射)とコーティング層表面の反射光(表面反射)の2つの光が打ち消し合うことで反射防止となります。これは、ある光の波長(λ)に対して、その光(波)が打ち消し合う膜厚(2つの光の光路差がλ/2となるコーティング膜厚=λ/2÷2(往復分)=λ/4の膜厚)に制御することで可能となります。
また、その反射率の値は、基材とコーティング材料の屈折率(n)によって決まります。
各波長の視点から考えると、一定のコーティング膜厚に対して、その反射防止となる膜厚条件が異なるため、各波長の反射率の値も異なってきます。(反射防止となる膜厚条件の波長が、最も低い反射率(ボトム値)となります。)
以下は、単層のARコート例となりますが、反射率特性①は、PMMA基材(n=1.49)に、SiO2(n=1.46)膜を光学膜厚nd=125nm(波長λ=500nmのλ/4の膜厚)単層コートした場合となり、反射率特性②は、ガラス基材(n=1.52)に、MgF2(n=1.38)膜を光学膜厚nd=125nm(波長λ=500nmのλ/4の膜厚)単層コートした場合の反射率特性例となります。この様に基材とコーティング材料の違いにより、反射率特性も異なります。
※光学薄膜で取り扱う膜厚は、屈折率(n)と物理膜厚(d)を掛け合わせた光学膜厚(nd)となります。
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単層コートよりもさらに反射率を下げるには、2層コートにします。
以下が、2層コートの例です。
2層コートよりも広範囲で低反射にする場合は、3層コートにします。
以下が3層コートの例です。
ARコートの基本構成は、上記の単層、2層、3層の3パターンとなります。
3層コート以上の4~7層程度のARコートも一般的ですが、これは3層構成を基本として、特性調整のために1層構成部分を2層に分割した構成や、物性対策用として層を追加しているために4~7層程度のARコートになります。
2. ARコートの反射率特性の種類
ARコートの反射率特性は、要求値により膜構成を設計することで様々な特性が可能となります。前項で述べた3パターンも含め、代表的な特性を以下にまとめました。
反射率特性 | 層数 | 特徴 | 用途 |
1層 |
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2層 |
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3層 |
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4層~7層 |
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4層~7層 |
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4層~7層 |
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3. ARコートの材料
ARコートの反射率特性は、コーティング材料(屈折率)と層数、その構成により決められるため、このコーティング材料の選定も重要な検討項目となります。処理方法や要求物性値により、使用できるコーティング材料も限られるため、各コートメーカーは、独自にコーティング材料を検討選定しています。
乾式法(ドライ)の真空蒸着でよく使用されるコーティング材料は以下となります。
コーティング材料 | 屈折率 | 特徴 |
SiO2 | 1.46 |
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MgF2 | 1.38 |
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Al2O3 | 1.60~1.70 |
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TiO2 | 2.20~2.30 |
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ZrO2 | 1.90~2.00 |
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TiO2+ZrO2 | 2.15~2.18 |
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ITO(In2O3+SnO2) | 2.00 |
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※屈折率は処理方法・加工条件により変化します。
4. お問合せ
ARコートの反射率特性と層数の関係から、コーティング材料まで説明をさせて頂きましたが、ARコートの反射率特性は、設計検討により様々な特性を実現できます。
ARコートとその反射率について、解らないことや相談したいことがありましたら、以下のお問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。弊社で検討の上、ご要望に適したご提案をさせていただきます。
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