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有機・無機ハイブリッドハードコート剤「Acier(アシェル)」開発秘話

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有機・無機ハイブリッドハードコート剤「Acier(アシェル)」開発秘話

こんにちは、ニデックのコート事業部 研究開発部 開発二課の小出です。
製品の表面をキズや汚れから守るため独自開発した、有機・無機ハイブリッドハードコート剤“Acier(アシェル)”。
今回は、本製品開発の背景から内容、特長について、お話しさせていただきます。

1. 開発の背景

ポリメタクリル酸メチル(PMMA)およびポリカーボネート(PC)に代表される透明プラスチックは、透明性、成形加工性、耐侯性、軽量化などに優れていることから無機ガラスの代替として、自動車部品、ディスプレイ材料、プラスチックレンズなど成形品、光学フィルム・シートなどに幅広く利用されています。

しかし、透明プラスチックは無機ガラスと比較して表面が傷つきやすく、素材によっては耐薬品性が著しく劣るという欠点があります。このため、表面保護用にハードコートが必要となる場合が多く、多数の有機、無機のハードコート剤が開発されています。特に、携帯電話・スマートフォンのディスプレイや筐体、デジタルカメラに搭載されている光学プラスチックレンズ、タッチパネル等に使用されている光学フィルム、自動車ヘッドライト樹脂等は外部と直に接するため更に求められる性能は高くなっています。その性能として、無機ガラスの表面硬度に限りなく近づけながら樹脂の特性を低下させないコーティング材料(ハードコート)が望まれています。

近年、有機物と無機物を分子あるいはナノレベルで化学的に結合または相互作用させることによって得られるハイブリッド材料が、双方の特性を併せ持つ材料として注目され幅広く検討されています。有機物と無機物を単に混合(ブレンド)しただけでは凝集等により全体が不均一となり、両成分の特性を併せ持つどころか打ち消しあってしまうことがあり、課題となっていました。

この課題に対して、安定的に両成分を均一分散することで、双方の優れた特性を維持した新たなハイブリッド材料を作製する目的で検討を開始しました。

まず、ナノオーダーのシリカ粒子をアクリルモノマーとハイブリッド化させることにより均一分散させ、高い透明性を維持したまま、高硬度で耐擦傷性に優れたハードコートを与えるアクリル系有機・無機ハイブリッドハードコート剤“Acier(アシェル)”の開発が始まりました。

2. アクリル系有機・無機ハイブリッドハードコート剤“Acier(アシェル)”の開発

ハイブリッドハードコート剤の調製

有機・無機ハイブリッド材料の調製において無機成分として多用されるシリカは安価で透明な材料であり、形状も豊富で入手性も良く、また、シリカの屈折率(1.4~1.5)がPMMAの屈折率(1.49)に近いことから、両者を混合した場合、屈折率の違いに起因する光の界面反射が起こり難く、透明な複合材料を作製し易いとされています。しかし、この場合でもシリカのドメインサイズが50 nmを超えると光の散乱による透明性の低下が生じるとされています。したがって、分子レベル(ナノサイズ)でシリカをPMMAマトリックス中に均一に分散させることができれば、PMMA特有の透明性を損なわずにシリカの無機成分としての特性を付与したPMMA-シリカ複合材料が可能になります。

この検討を進め、アクリルモノマーとシランカップリング剤および粒子径10~15 nmのコロイダルシリカを配合し、光重合開始剤を加えて有機・無機ハイブリッドハードコート剤を調製しました(写真1)。図1に示すようにシリカ粒子の粒度分布は調製の前後でほとんど変化がなく、コート剤も室温および40℃の保存で粒子の沈澱、分離などは見られず、シリカ粒子を均一分散させることができました。

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上記ハードコート剤をバーコートによりPMMAおよびPC板に塗布し、UV照射で硬化し有機・無機ハイブリッドハードコート膜を作製しました。コート表面のAFM観察でも粒子の凝集は見られず(図2)UV硬化後も粒子が均一に分散していることを確認できました。コート層による透明性低下が起こらず、塗布後もPMMAおよびPCは高い透明性を維持することができました(写真2)。


一度中断した開発

実は、この有機・無機ハイブリッド化の検討において、当初、傷に強く、硬度が非常に高くなったもののハードコート剤として耐久性の観点から実用レベルには及ばず開発を見直す必要があり、一度中断しました。
しかし、この傷に強いハードコート剤を何とか製品化させたいという思いは消えず、手法から改めて検討することも含め、開発を再度、開始しました。ハードコート剤を研究されている方々のご協力、アドバイスも受けて、手法の検討から材料の検討を積み重ね、ようやく実用レベルの有機・無機ハイブリッドハードコート剤を開発させることができました。当初の開発から約5年かかり、ハードコート剤の検討サンプルは500以上作製しました。
数々の失敗という苦い思いはありましたが、今では諦めず再挑戦し続けてきたことは私の大きな自信にもなっています。

得られるコート膜の特長

開発した有機・無機ハイブリッドハードコート膜の特長について説明します。
PMMA上に塗工し、各種評価試験を行った結果が以下の表となります。密着性も良好で、鉛筆硬度 6H、スチールウール(#0000)による1.5kg荷重100回往復の摩耗試験でも傷がつくことなく優れた耐擦傷性を有する結果が得られました。また、テーバー摩耗試験後もほとんど摩耗痕を確認することができませんでした。(写真3)

項目 試験条件 結果
透過率 @600 nm 92%
密着性 クロスハッチセロハンテープ剥離法(3回) 異常なし
鉛筆硬度 JIS K5600-5-4 6H
耐摩耗性 スチールウール#0000, 1.5 kg 荷重 100回往復 傷なし
テーバー摩耗試験
CS-10F 500 g × 50回転 Haze値
1.5%
接触角 θ/2法による 105°(水)
68°(オレイン酸)
耐湿熱性 60℃, 90%RH, 1000 h 異常なし
耐熱性 80℃, 1000 h 異常なし
コート剤主要剤:PGM, MIBK
コート剤固形分濃度:50 wt%
使用基材:PMMA 基材 (厚さ2 mm)
塗工方法:バーコーター、膜厚約10~12 μm 
※特性は参考値であり、保証値ではありません

耐擦傷性
写真3に示すようにテーバー摩耗試験後もほとんど摩耗痕なし。

テーバー摩耗試験結果
【写真3】 テーバー摩耗試験結果


3. 今後の発展

開発した有機・無機ハイブリットハードコート剤“Acier(アシェル)”は、PMMA基材表面の耐摩耗性をガラス並みにすることができました。市場の要望としては、PMMAの他、PET、TACに代表されるフィルム類、さらにPC成形品へのコーティング要望もあり、現在も検討対応しています。今後もさまざまなプラスチック基材に対応、応用検討を進めて行く予定です。

これまでハイブリッドハードコート剤“Acier(アシェル)”は、自動車関連部品、携帯電話・スマートフォン、カメラレンズ、AR・VRレンズ、ディスプレイ前面板など、多くの分野で採用・使用されてきております。今後も表面保護、汚れ防止を必要とするさまざまな製品に少しでもお役に立てればと考えています。

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