高耐久ARコート「Lequa-Dry(レクアドライ)ハイグレード」開発秘話
こんにちは、ニデックのコート事業部 研究開発部 開発一課の川島です。
私は2010年入社以来、ARコート(反射防止膜)の開発業務に携わってきました。
今回、ニデック コート事業部の主力製品となっている高耐久ARコート“Lequa-Dry (レクアドライ)ハイグレード” における開発の背景からその内容について、お話ししたいと思います。
1. 開発の背景
ARコートとは
ARコートは、Anti-Reflection coating(Anti-:反対の Reflection:反射)のことを指し、反射光を低減させる機能を持った膜です。ARコートはメガネやカメラレンズの表面、各種ディスプレイ表面、車のメーターパネル表面、光ファイバーの端面など、光と密接に関わる様々な場面で活躍しています。
従来のARコート
ARコートの本質は、反射光が眩しくないようにする、光を透過しやすくする、といった入射光に対する効果が主なポイントになります。また、フィルム製品やプラスチックパネル製品においては大面積でのARコートができるということが魅力とされていました。しかし、昨今のプラスチックパネル市場で求められるのは大面積に加えて、長期間使用した際の耐久性が主なポイントとなってきました。
課題
プラスチック製前面板(PMMAシートなど)へのARコートは、日々要求される耐久性は厳しくなり、従来のARコートでは、要求値を満たすことも難しくなりました。特にプラスチック自体が問題となる耐光性(耐UV性)は、大きな課題として、改善要望が高まって来ました。
ニデックのARコートは、“Lequa-Dry(レクアドライ)”と呼び、真空蒸着法による加工を行っていますが、真空蒸着装置は、大きく2種類、バッチ式と連続式があります。バッチ式は、大きなサイズの製品に対しては量産性に欠け、またコストも課題となとなるため、改善検討は、連続式の真空蒸着機で進める必要がありました。
ここから当社所有の大型の連続式真空蒸着機による高耐久ARコートの長い開発が始まりました。
※当社の連続式の真空蒸着機は、ロールコーターではなく、1ドームのバッチ式に対して、3ドームの連続式の真空蒸着機となります。
2. 高耐久ARコート“Lequa-Dry(レクアドライ)ハイグレード”の開発
第一の壁
真空蒸着機の加工は、装置内の真空度が重要なポイントになります。各真空蒸着機は、その形状や真空ポンプの差により、真空度の差が少なからずあります。一般的により高い真空度で加工すると、緻密で良質な膜となり、耐久性も高くなる傾向となります。バッチ式の真空蒸着機の場合、真空にする時間(排気時間)を長くすることで、真空度も高くすることができます。しかし、連続式の真空蒸着機は、一定の排気時間で加工されるシステムとなっているため、排気時間を長くして真空度を高くすることは、連続式の効率を低くすることとなり、生産性も悪くなります。そのため、連続式の真空蒸着機は、排気時間を長くすることを避ける必要がありました。
連続式の真空蒸着機による高耐久ARコートの開発は、真空度や排気時間は変えず、如何に耐久性を向上できるのか、という第一の大きな壁にあたりました。とても悩まされましたが、改めて耐光性評価における蒸着膜の剥がれのメカニズムを検討し、アプローチする重点をコートする樹脂材料の最表面に切り替えました。蒸着膜は金属酸化物であり、耐光性評価(UV照射)において蒸着膜自身が劣化することはなく、蒸着膜とコートされる樹脂材料の界面にあたる最表面(樹脂自体)が劣化することで膜剥がれが発生する現象に着目し、テスト検討を進めました。そこで、漸く耐光性に優れた条件を見つけ出すことが出来ました。
第二の壁
これで良い製品を出していける!と、喜べたのはほんの一瞬でした。
耐光性はよくなったものの、耐傷付き性が悪化する現象が発覚しました。第二の壁です。このレベルでは製品とすることはできず、開発は振り出しに戻されてしまいました。
過去のテスト結果を何度も見直し、再テストを繰り返しました。特に所有している連続式蒸着機に合わせた条件検討を行うことにより、耐傷付き性を改善する結果を見い出しました。さらに、耐光性が良くなる条件と、傷付き性が良くなる条件、これらの条件を追加検討し、漸く連続式の真空蒸着機による耐光性の優れたARコート“Lequa-Dry(レクアドライ)ハイグレード”の開発に成功しました。
開発した高耐久ARコートの特性は、従来品に比べ耐光性のみならず、耐塩水性も大幅に改善することができました。
高耐久ARコート“Lequa-Dry(レクアドライ)ハイグレード”の特性
開発した“Lequa-Dry(レクアドライ)ハイグレード”の特性が以下の表になります。
項目 | 試験条件 | 結果 |
擦傷性 | スチールウール #0000, 1.5 kg荷重 5往復 | キズ15本以下 |
鉛筆硬度 | JIS K5600-5-4(荷重750 g) | 4 H |
接触角 | θ/2 法による | 105°以上 |
密着性 | クロスハッチセロハンテープ剥離法(3回) | 剥がれなし |
耐熱性 | 80℃, 1000 h | 剥がれなし |
耐湿性 | 60℃, 95%, 1000 h | 剥がれなし |
耐塩水性 | 塩水噴霧試験 JIS Z2371, 28日 | 剥がれなし |
耐光性 | スーパーキセノン BP = 63℃, 500 h | 剥がれなし |
※特性は参考値であり、保証値ではありません。
3. 今後の発展
高耐久ARコート“Lequa-Dry(レクアドライ)ハイグレード”においては、耐久性にご満足いただけるお客様が増えました。これは開発者として非常にうれしい事です。
ARコート(反射防止膜)が必要とされる製品は数多くあります。そのひとつひとつに求められる耐久物性、光学特性は異なってきます。こんな製品のこんな部分に反射防止膜をつけられたら・・・という要求もまだまだ少なくはないと思っています。そのようなご要望にお応えし、少しでも皆様のお役に立つことができる製品や、さらなる開発をしていきたいと思っております。
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