ARコートの実力とは?反射・透過率の悩みを一気に解決する方法を解説
「まぶしさを解消したい」「映り込みをなくしたい」「反射で見えない」など、製品にはさまざまな悩みが発生します。反射防止効果のあるコーティングを施すことで、反射の悩みを解消することができます。さらに、防汚・撥水コーティングを行い、防汚や耐摩耗性向上といった機能も付与させることができます。しかし、反射防止を目的とした表面処理によっては反射を抑えても透過率が下がる事もあり、製品として不都合が生じるケースも考えられます。ここでは、反射防止効果について解説しながら、同時に透過率改善へのヒントとなる情報をお伝えしていきます。
1. 反射防止(AR)とは
ガラスや鏡のように滑らかな表面を持つ物質は、光を反射します。製品によっては、それが危険度を高めたり、使いにくさの原因となったりするなどの課題となる場合があります。反射防止はこの課題を解決する技術となります。初めに反射防止の基礎知識と原理・効果を解説します。
反射防止(Anti-Reflection)の基礎知識
反射防止(Anti-Reflection)とは、光の反射を抑える、防止する効果のことです。頭文字を取って、ARと呼ばれています。
光は物質と空気の境界となる界面で反射します。ガラスは光を通しますが、実際には光がガラスを通過する際、表面と裏面でそれぞれ約4%ずつ、計約8%の反射が起こるのです。これが映り込みや眩しさの原因となります。
ARコート(反射防止膜)は、光学薄膜を利用した光の反射率を減少させる技術です。テレビやパソコンなどのディスプレイ、自動車のナビゲーションディスプレイなどにおいて、映り込みにより、見え難くなるのを防止します。「見えやすさの向上→使いやすさの向上」といった効果が得られます。
ARコートのコーティング手法は、乾式法の真空蒸着、スパッタリングなどが、一般的です。対象物の表面にフッ化マグネシウムや二酸化ケイ素などの薄い膜をコーティングします。
その他には、ディッピングや、ダイコートなどの湿式法によるコーティング手法もあります。
また、ARコートを施したレンズなどの光学製品の場合、光の透過率を向上させる重要な機能にもなります。
反射防止の原理と効果
反射防止の仕組みは、コーティング最表面の反射と基材界面の反射の2つの反射波が、互いに打ち消し合い、反射波がなくなるという干渉現象によるものです。単層(シングル)ARコートでは対象物の上に1層の被膜が形成されます。多層(マルチ)ARコートでは複数の材料で多層の被膜を形成します。
一般的な透明なガラスに対して、ARコートが無い場合、単層コート、多層コートでは、反射率と透過率に以下のような違いがあります。
2. 透過率が上がる仕組み
しかしなぜ反射防止効果によって、透過率まで向上するのでしょうか。その仕組みを解説していきます。
界面では約4%の光が反射する
光はガラスを通過する(空気中)際、ARコートがない場合は、基板の表と裏で約4%の光がそれぞれの界面で反射し、透過率はマイナス約8%(約4%×2面)となります。夜間に明るい部屋の中から暗い窓の外を見ると、自分の姿が窓ガラスに映ります。これは約8%の反射光が見えていることとなり「外がよく見えない」のは、この反射光が影響しているからです。
例えば、レンズ5枚を重ねた場合、ARコートがないとその透過率は約66.5%にまで低下してしまいます。3割以上の光が通過(透過)できなくなると、「見えにくい」だけでなく、レンズとしての機能が大きく損なわれてしまいます。しかし、ARコートを施して反射光を抑えれば、透過率を上げることができます。
前述のデータから見ても、コート無しに対し、単層・多層のARコートを施すことで透過率が上がることが分かります。製品の品質や性能を高めるためにも、ARコート(反射防止膜)は非常に重要なコーティングとなります。
打ち消し合った光の行方
反射防止効果では、光の反射を打ち消し合う現象(干渉)が発生しています。
光が膜面に入射すると、光の波はその界面で反射と透過の2つに分かれます。反射する光の波は、「膜表面で反射する波」と「基材表面で反射する波」の2種類があり、これらは逆位相(山と谷)になる事で打ち消し合い小さくなります。
一方、透過する光の波は基材表面で反射し、さらに膜表面で反射した波と同位相(山と山)となり、重なり合い、その分(反射する波が打ち消し合った分)大きくなります。これにより、反射するはずの光が透過することになり、透過率が向上するのです。
ARコートを施した界面ではこうした作用が発生し、結果的に反射を抑え透過率を上げています。
特に多層ARコートでは、屈折率の異なる材料や厚さの違うコーティングを積層します。すると各層において、位相の異なる反射光に変わります。これは光の干渉する波長帯域が広くなり、それだけ広い波長帯域の反射を低減することができます。単層ARコートでもある程度の波長帯域で光を打ち消すことは可能ですが、多層ARコートはさらに広範囲の波長帯域で反射を抑え、透過率を上げることができます。
3. 反射、透過率の改善
反射や透過率に関する一般的な課題としては、以下の例が挙げられます。
- 写り込みやゴーストが気になる
- 視認性・画質を向上したい
- 製品表面のキズ防止策を強化したい
- ガラスの焼けやカビを防ぎたい
- ディスプレイの消費電力を減らしたい
例えば、照明の場合には反射した光量分が暗くなる、光学機器の場合ではレンズの内部反射によってゴーストやフレアーの発生原因となるといった問題が起こります。また、ディスプレイにおいては、反射が強すぎると表示内容を読み間違えるといったように視認性が低下し、製品の質にダイレクトに影響するという問題に繋がります。
これらの反射、透過率に関する課題は、ARコートを施すことで解決することが可能です。ディスプレイ表面のARコートにより光量が上がれば、省電力化にも繋げられます。
さらにARコート上に防汚・撥水コートを施すことで、防汚性・撥水性を高めることもできます。ガラスの場合、焼けやカビに対しても有効です。
4. ARコート活用事例
- テレビディスプレイ、PCディスプレイ、医療⽤ディスプレイ
- 高級時計
- ⾃動⾞メーターパネル、カーナビゲーションパネル
- デジタルカメラレンズ
- 携帯電話ディスプレイ・カメラ
- 眼鏡レンズ・サングラスレンズ
- ディスプレイ前面フィルム
- 魚群探知機のようなマリン用途のディスプレイ
- HUD(ヘッドアップディスプレイ)
- 車載カメラレンズ
ARコートは、ガラスやPMMA(アクリル樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート)など、各種の材料にコーティングが可能なため、活用法は多岐にわたります。反射光を抑えることで見えづらさが軽減されます。事務作業用ディスプレイのデータが見やすくなることで作業効率が向上する、携帯電話の画面が見やすくなることで製品の快適性が増す、といった効果が期待されます。
ARコートにも用途別に様々な種類があります。例えば、耐塩水性を付加したARコートの場合は、漁船やプレジャーボートなどへの利用も可能です。UV(紫外線)によるクラックの発生を防ぐ機能を付加することで、長時間日光にさらされるレンズの保護にも役立ちます。
日本人にとって身近なアイテムである眼鏡においても、現在では8割以上がARコート付きの眼鏡レンズです。眼鏡レンズには1970年代から技術が活用されていますが、時代の要求により撥水性や、防汚性、耐擦傷性など機能が進化しています。
このようにARコートは、生活や社会の中でほぼ全領域にわたって活用されており、視認性や快適性、利便性に貢献しています。
5. 反射や透過率の課題を一掃するARコート
反射防止効果のある薄膜(ARコート)により、映り込みや眩しさ軽減、さらに透過率の向上といった機能を加えることができます。自社製品に関するさまざまな課題に対して、有効な解決法となる可能性があります。ARコートにも各種タイプがあり、必要とする条件によって選択できます。反射・透過率の課題解決にお悩みの際には、ぜひ専門のコートメーカーに相談されてみてはいかがでしょうか。