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気相転写染色の開発秘話

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気相転写染色の開発秘話

こんにちは。ニデックのコート事業部 研究開発部 開発二課の犬塚です。私は1983年入社以来、メガネレンズの染色技術の開発に携わって来ましたが、今回、独自開発しました「気相転写染色」について、背景から発明した内容、メリットも含めて解説していきたいと思います。

気相転写染色技術 「第34回 日本発明大賞発明振興協会 会長賞」を受賞した発明。

 

気相転写染色例1
気相転写染色例2

LILY_COULURE

リリクルーレ 気相転写染色技術を利用したアイメイクメガネ。https://www.lilycoulure.com/
『第25回日本メガネ大賞2022 レディース部門 グランプリ受賞』



1. 開発の背景

お客様が眼鏡店で視力矯正用の眼鏡を購入する場合、一般的には透明なレンズを購入されますが、中には店頭に置かれているカラーサンプルを参考に、ファッション性を持たせるためにグラデーションのカラーや、眩しさを和らげる目的でサングラスの様な濃色で着色した眼鏡レンズを希望される場合もあります。このレンズに色を付ける加工方法は通常“染色”という方法で行われています。

眼鏡店からご注文をいただいた眼鏡レンズは、指定された度数のレンズに染色、ハードコート、反射防止コート、撥水コート等の表面処理加工を行っています。染色以外はすべて専用の自動化された装置で加工されていますが、染色加工だけが未だに熟練者が1ペアずつ手作業で色を出しています。人の手に頼って染色しているのが実情でした。この方法を変えるため、新しい染色技術の開発が始まりました。

2. 従来の眼鏡レンズの染色方法

一般的な染色(写真:WET染色)は、目標の色になる様に配合した分散染料を混ぜ合わせた染色液を90℃以上にした後、ペアにしたレンズを指定時間浸漬させることで染色していきます。繊維を染めるのと同じ様な方法です。しかし、染色液の色の安定性や、眼鏡レンズの製造ロット又はレンズ度数の差の影響で、目的の色にならないことが普通で、この場合熟練者が色修正用の染色液で色修正を行い、1ペアずつ色見本の色に調整して目標の色にしています。非常に手間のかかる作業です。また、染色液により作業場や作業着の汚れがひどく、染色液の廃液も大量に発生してしまいます。更に作業場は高温になった染色液がいくつも置かれているために、非常に蒸し暑く、作業環境もよくない状況でした。

WET染色

 

3. 開発の始まり

1996年に染色技術に詳しい技術士の先生にニデックに来ていただき、二人で新しい染色技術の開発が始まりました。先生からはとにかく、社外に出て色々な技術を見て、色々な人と話をまずしなさいと指示を受け、関係する大学の先生、研究所の先生や繊維の染色工場の技術者の方々のお話を伺いました。

その中で考えついた方法が転写という技術であり、染色したい色の染料を転写紙に印刷して、この染料をレンズに転写する方法でした。そうすれば必ず色の再現性はあがり、誰が行っても同じ色で染色ができます。しかしこの開発は容易ではありませんでした。

当初は伸縮性のあるフィルムを使用しての転写や、シリコンパッドを利用したタンポ印刷での転写を検討しましたが、どうしても現状のグラデーションの様な品質には届きませんでした。

固定概念を変える

一般的に転写はどうしても密着させて転写をイメージしますが、あえて非接触での転写に挑戦することにしました。レンズを染色できる染料は昇華性があり、真空中で熱を与えればガス化する。これを利用できないかと考え、小型の真空装置を作製し、下に昇華性染料を印刷した転写紙を置き、上にレンズを置いて真空装置内で真空にした後、転写紙の下にセットしてある熱プレートを発熱させてみたところ、レンズ面に均一に染料が付着できました。これまで密着で出ていたようなドットのような跡もない。これをオーブンで加熱することで、WET染色と変わらない染色が可能になりました。この染色方法を「気相転写染色」と名づけ、ここから「気相転写染色」の開発が始まりました。

作業性と品質の安定性の課題

染料を昇華させることでWET染色と同等な染色ができることが確認できましたが、作業性と染色品質の安定性に問題がありました。

チャンバー内の転写紙を熱するプレートを一旦高温にすると、そのまま次の転写紙を直ぐにセットできません。冷めてから転写紙をセットする必要がありました。プレートが冷めるのに大きな時間を必要とするため作業性が悪いものでした。また転写紙に熱をかけると紙が反ったり、シワが入ったりするため、部分的に染料が昇華しにくい部分が出てしまい。色の品質も安定しませんでした。

非接触による転写紙の加熱

これまでの課題を大きく改善できたのは、転写紙加熱方法の変更でした。赤外線吸収加工をした転写紙に赤外線ランプを照射して転写紙を昇温させる方法で、熱源と転写紙が非接触であるため、ジグや装置周辺部の温度が急激に上がることがなくなり、連続での作業が可能になりました。また、転写紙が反っていても赤外線があたるため、転写紙面が均一に昇温し、染料を全て昇華できるようになり、染色後の色も安定させることができました。


4. 気相転写染色の概要

気相転写染色は、次の3つの工程となります。

1.転写紙作製

インクジェットプリンターで、染色する色の染料を転写紙に印刷。

2.気相転写

転写紙とレンズを非接触の状態にして、真空装置内で転写紙を昇温させて染料をレンズに昇華転写する。

3.オーブン定着

染料を塗布したレンズを取り出し、オーブン内で加熱して染料を定着(染色)。


気相転写染色の概要


5. 気相転写染色の開発内容

気相転写染色で量産を実現するには、更に次の開発が必要となっていました。

1.眼鏡レンズを染色できる染料を用いた専用の昇華性染料のインクジェット用インクの開発

繊維の染色に使用するための昇華性インクジェット用インクも市販されていますが、気相転写染色する場合、そのようなインクでは発色不良、色ムラ等が発生してしまいます。よって、気相転写染色に適した染料と、色ムラにならないインク用添加剤の選定をして、気相転写染色専用のインクを開発しました。

2.染料を効率よく昇華させるための専用の転写紙の開発

気相転写染色で使用できるような転写紙も市販されていないため、赤外線を効率よく吸収し、耐熱性があり、真空中でも不純物が析出しにくい専用の転写紙を開発しました。

3.目標の色やデザインを正確に再現するための印刷ソフトウエアの開発

市販されているインクジェットプリンターで印刷はできるものの、一般の印刷ソフトウエアでは染料が異なることもあり、正確な色を再現するのは困難でした。よって、専用の印刷ソフトウエアを開発し、目標の色に合わせられるようにしました。

4.転写紙に印刷した昇華性染料を効率用よく、色ムラ無く転写するための気相転写装置の開発

転写紙と眼鏡レンズを非接触の状態でセットしたまま、真空にして、転写紙だけ均一に効率よく赤外線を照射できる装置を開発しました。この装置は10ペア(20枚)のレンズを同時に転写できるだけでなく、その10ペアの色が干渉することなく、異なった色で転写できる装置で、加工時間は5~6分/バッチで処理が可能になりました。



6. 気相転写染色のメリット

1.熟練者でなくてもだれでも再現よく染色が可能

インクジェットプリンターにより印刷された色のみが眼鏡レンズに正確に染色されるため、色修正の作業がほとんどなくなりました。気相転写装置もスイッチをONするだけで、自動で加工するため、熟練者の必要もありません。

2.作業場が清潔になり、環境もよい

WET染色ではどうしても、染色液が作業台、床、作業着等に付着していまい、汚れが目立つ職場でした。気相転写染色では染色液を使用しないため清潔になり、水蒸気も発生しないため、働きやすい職場になりました。

3.染料廃液が無くなった

WET染色の場合、毎月数100 kgの染料廃液を処理する必要がありましたが、それが無くなりました。環境にも非常に適しています。


7. 技術的効果

1.色の品質が安定

WET染色で加工した場合は色の品質が安定しないため、コート後の不良率も高くなっていました。気相転写染色の場合は、再現よく色を染色することができるため、コート後にはほとんど染色に関連する不良がなくなりました。

2.色々なデザインが可能

これまでは全面1色、グラデーション、2色グラデーションのデザインの色が市販されているだけでしたが、インクジェットプリンターを使用しているため、今までにない色々なデザインで眼鏡レンズに染色することが可能になりました。

3.色の耐光性がよい

眼鏡レンズの色はどうしても紫外線で徐々に退色してしまいます。WET染色では両面に染色されており、紫外線があたる凸面で大きく退色しているが進んでしまいます。しかし気相転写染色はレンズの凹面のみに染色しているために非常に退色しにくい。サングラスカラーのGrayで染色した他社の染色レンズ、当社のWET染色レンズと気相転写染色で耐光性を比較してみたところ、1/10の色の変化しかありませんでした。

4.従来では染色できないレンズも染色可能

眼鏡レンズ業界では超薄型レンズとして非常に屈折率の高いレンズが市場に出てきています。このレンズは非常に染料との親和性が悪く、WET染色では染められなくなってきました。このような素材のレンズを染めるためには100℃以上の高温が必要となるためですが、水を使用していない気相転写染色では100℃以上でも容易に上げられます。そのため従来では染色できない様な超高屈折率レンズやポリカーボネートレンズも染色することができるようになりました。


8. 今後の発展

この染色技術は当社だけでなく、国内外を含め数社に使用していただいており、今では日本を含め7カ国でこの染色システムが導入され眼鏡レンズの染色に使用されています。更に使いやすい装置に改良して、染色で苦労されているメガネレンズメーカーの少しでもお力になり、メガネレンズ業界の発展にお役に立てればと考えています。また、メガネレンズ以外へ応用され、各種業界の発展にもお役に立てればと考えています。

ニデックでは、気相転写染色を行う装置“TTM-2000”も一連の染色技術としてライセンス販売しております。また、受託加工も“RefColor(レフカラー)染色”として請け負っております。
気相染色技術にご興味、ご要望等ありましたら、お気軽にお問い合わせください。


気相転写装置“TTM-2000”

TTM_2000
対応サイズ
最大 500 mm × 400 mm

 

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