赤外線用ARコートとは? ~赤外線用レンズ・センサーの性能を高める反射防止膜~

ここ数年、赤外線を活用する分野が改めて注目されています。放射温度計やガスセンサーから、さらには自動運転の関連技術に至るまで、赤外線光学系の性能向上が求められる場面が増えています。
こうした流れの中で、赤外線用AR(反射防止)コートへの関心が高まり、当社にも多くのお問い合わせをいただいております。
今回は、赤外線用ARコートの種類、特長、適用例をご紹介させていただきます。
赤外線を用いた製品の選定や設計検討の際のご参考になれば幸いです。
1.赤外線用ARコートとは
赤外線用ARコートとは、放射温度計やガスセンサーなどで使用される2.5~14μmの波長の赤外線の透過率を向上させるためのコーティングです。
※赤外線は、一般的に近赤外線・中赤外線・遠赤外線に分類されますが、ここでは近赤外線(780nm~2.5μm)
を除いた中赤外線~遠赤外線を対象としています。
この波長域で使用される窓材やレンズには、ゲルマニウム(Ge)、シリコン(Si)、カルコゲナイドなどが用いられます。一般的なガラスや石英は赤外線を透過しないため、使用できません。
これらの材料は、一般的なガラスと比較して屈折率が高く、反射率も高いため、透過率が低くなるという特性があります。そのため、透過率を向上させる目的で、反射防止膜(ARコーティング=赤外線用ARコート)を施すことが一般的です。
この赤外線用ARコートにおいても、使用できる材料も限られているため、可視光域の反射防止膜とは異なる材料の選定が必要となります。
また、赤外線は可視光線よりも波長が長いため、各層の膜厚が厚くなり、成膜条件の最適化が求められます。
このように赤外線用ARコートは、材料選定や成膜条件最適化など高度な技術が求められる特殊なコーティングとなります。

2.ニデックの赤外線用コートの種類
ニデックでは、赤外線用途に対応した3種類のコーティングをラインアップしております。
また、コーティング加工だけでなく、窓材やレンズの提供も可能です。
透過率 | 耐傷性 | 耐環境性 | 耐塩水性 | |
コートなし | × | × | △ | ー |
①赤外線用ARコート | ◎ | △ | 〇 | × |
②赤外線用DLCコート | △ | ◎ | 〇 | ◎ |
③高硬度赤外ARコート | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ |
①赤外線用ARコート
赤外線領域での光の反射を抑え、透過率を高めるために設計されています。
屈折率の異なる材料を積層することで、干渉効果を利用して反射を打ち消し、広帯域での低反射を実現し、レンズや窓の透過率を向上させます。
赤外線用AR膜は、耐傷性・耐湿性・耐薬品性などの耐久性にも優れており、過酷な環境下でも使用可能です。
シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)などの赤外線透過性の高い材料に対応可能です。
AR膜により、赤外線用レンズやセンサーの性能が向上し、精度の高い測定や撮像が可能になります。
構成例

特性例

②赤外線用DLCコート
DLC(Diamond-Like Carbon)は、ダイヤモンドに匹敵する高い硬度を持ち、赤外線用レンズやセンサーの保護膜として優れた耐久性を発揮します。砂消しゴムによる摩耗試験でもキズが入らないほどの高い耐摩耗性を備えています。
成膜方法にはCVD(化学気相成長)やPVD(物理気相成長)などがあり、原料ガスや加工条件によって膜の特性が変化します。ニデックでは高周波プラズマを用いたプラズマCVD法を採用し、独自の条件で成膜を行っています。
レンズや窓の内側面に赤外線用ARコーティングを施し、撮像側面にDLCを適用することで、赤外線領域での高い透過率と、使用中の衝撃によるキズの発生を抑える効果が期待できます。
さらに、DLCは耐腐食性・耐薬品性・耐湿性にも優れており、過酷な環境下でも安定した性能を維持します。
構成例

特性例

③高硬度赤外ARコート
赤外線用DLCコートの透過率では物足りない、また赤外線用ARコートの硬度や耐擦傷性に不満があるという声に応え、高い透過率と優れた硬度・耐擦傷性を兼ね備えたコーティングを実現しました。
- 20 GPaの硬度を持ち、砂消しゴム摩耗試験でもキズが入らないほどの耐久性
- 赤外線に対応し、ゲルマニウムやシリコン基板に対して高い透過性能を発揮
- 過酷な環境でも安定した性能を維持
- MIL規格に準拠した試験で、耐湿熱性・密着性ともに異常なし
構成例

特性例

3.赤外線用レンズ・窓
赤外線用ARコート、赤外線用DLCコート、高硬度赤外ARコート加工したレンズや窓材の提供も行っております。
設計仕様に応じて、料料調達からレンズ製造、コーティング加工まで一貫対応をしております。
1個からの試作にも対応しており、サイズや数量も柔軟にご相談いただけます。
対応材料
ゲルマニウム基板、シリコン基板、カルコゲナイド基板
※ゲルマニウム基板は入手しづらくなっています
対応形状
凸、凹、メニスカス、平板など様々な形状に対応
図面、設計値などはご指定下さい

4.赤外線用コートの適用例
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赤外線カメラ(サーモグラフィー)のレンズやカバー窓物体から放射される赤外線を検出し、熱画像として表示 |
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赤外線センサーのレンズやカバー窓人や物体の赤外線放射を検知して動作 |
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赤外線放射計のレンズやカバー窓赤外線の強度やスペクトルを測定し、温度や成分を解析 |
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ガス分析装置のレンズやカバー窓3~7 μm帯に特徴的な吸収を持つガスの高精度な成分分析が可能 |
他にも赤外線を利用した多くの装置に使用していただいています。
5.お問合せ
赤外線用ARコート・レンズに関する仕様や応用例について、ご不明点やご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
ご要望に応じて、最適なご提案をさせていただきます。
1個から試作対応可能
サイズや数量も柔軟にご相談いただけます。
1個からの試作にも対応しており、多様なニーズに合わせたご提案をさせていただきます。
※全ての画像はイメージです。