ARコートの基礎知識 - 反射防止膜の処理方法と選び方 -

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目次

AR コート(反射防止膜)について、「どんな方法で加工していますか?」「どんな成膜方法を選べばよいですか?」といったお問い合せを多くいただきます。
今回は、AR コートの代表的な処理方法や選定のポイント、仕様の決め方について解説し、あわせてニデックのAR コート技術もご紹介します。
AR コートをご検討の際のご参考になれば幸いです。

1. ARコートの処理方法とメリット・デメリット


ARコートの処理方法は、大きく「乾式法(ドライ)」と「湿式法(ウェット)」の2つに分類され、それぞれに複数の成膜方法があります。以下の表では、各方法のメリットとデメリットを比較しています。

処理方法 メリット デメリット
乾式法
(ドライ)
真空蒸着 
  • 多層コートが容易
  • 成膜材料を選ばない
  • 乾式法の中では成膜装置・成膜材料が安価
  • 成膜速度が速い
  • 膜が低密度になりやすい
  • 条件によっては高温処理が必要
 スパッタリング
  • 膜が高密度
  • 再現性が高い
  • 付き回りが良好
  • 誘電体は不得意
  • 成膜装置・成膜材料が高価
  • 成膜速度が遅い
イオンアシスト
(IAD) 
  • 膜が高密度
  • 多層コートが容易
  • 様々な成膜材料が使用可能
  • 成膜速度が比較的高速
  • 成膜装置・付属品が高価
  • 膜応力が大きい
  • 設定条件が多く、処理が複雑

化学気相成長
(CVD) 

  • 付き回りが良好
  • 原料ガスに制約がある
  • 低温処理の場合は低密度膜になりやすい

湿式法
(ウェット)

 ダイ
  • 湿式法の中では膜厚の均一性が良好
  • 塗工効率が良い
  • 大面積の対応が容易
  • 完全平板形状のみの対応

 (フィルム、シートのみ)

 スプレー
  • 形状対応が可能
  • 飛散塗料があり、塗工効率が課題
ディップ 
  • 両面の同時加工が可能
  • 湿式法の中では外観品質が良好
  • 塗工分以上に塗料が必要
 フロー
  • 塗工速度が速い
  • 塗料ロスが少ない
  • 形状により膜厚分布が課題
  • 薄い膜は不得意

2. AR コート処理方法の選定ポイント

AR コートの処理方法を選ぶ際には、製品の要求仕様やコスト、形状など複数の要素を総合的に検討する必要があります。選定時に押さえておきたい主要なポイントを解説します。

①反射率特性による選定

乾式法は高性能ですが、装置が高価で加工時間も長く、コストが高くなります。
参考:数層の反射防止膜は「LRコート(Low Reflective Coating)」、3層以上の低反射の反射防止膜は「ARコート(Anti-Reflective Coating)」と呼ばれる場合があります。

乾式法(ドライ)5層コート特性

湿式法(ウェット)2層コート特性


②材料・形状による選定

ARコートはナノオーダー(nm)の膜厚で均一性が求められるため、基材や形状、サイズにより適用できる方法が異なります。


形状 処理方法
乾式法(ドライ) 湿式法(ウェット)
シート、フィルムなど
フラット形状
  • 真空蒸着
  • スパッタリング
  • イオンアシスト(IAD)
  • ダイ(大面積)
レンズなどの湾曲した形状
  • 真空蒸着
  • イオンアシスト(IAD)
  • ディッピング

3. ARコートの仕様の決め方

ARコートの仕様検討のポイントとなる「反射率仕様」と「入射角仕様」について解説します。

①反射率仕様

ARコートの仕様は、特定の波長範囲における反射率や透過率で規定されます。

代表的な仕様例

・片面反射率 R≦0.5% @λ=500~600 nm AOI=0°
・両面反射率 R≦1.0% @λ=500~600 nm  AOI=0°
・透過率   T≧98.0% @λ=500 ~600 nm  AOI=0°

ポイント
仕様を決める際は、どの指標(片面反射率、両面反射率、透過率)を基準にするかを明確にすることが重要です。特に透過率を重視する場合、ARコートを施す基材の透過率も考慮する必要があります。さらに、紫外線や赤外線領域では、基材の吸収波長を把握しておかないと、期待する性能が得られない可能性があります。

可視域ARコート 片面反射率の仕様例

近赤外域ARコート 片面反射率の仕様例


②入射角仕様

使用用途により、入射角(AOI:Angle of Incidence)を設定する必要があります。これは、反射防止をしたい光の入射角によりARコートの膜厚、および特性が変化し、入射角に合わせたARコートの設計が必要となるためです。(下図「ARコート片面反射率特性」参照)

ポイント
一般的に指定がない場合は AOI=0°で検討しますが、実測では AOI=8°や12°で代用されます。入射角が大きくなると、偏光(p偏光・s偏光)の差が顕著になります。偏光を扱う光学部品では、p偏光、s偏光、ランダム光(p+s)についても仕様検討が必要です。


AOI=0°,5°,10°,15°,20°,30°,45°, 50°, 55°ランダム光のARコート片面反射率特性




4. ニデックのARコート技術と特長

ニデックでは、用途や仕様に応じて2種類のARコート処理方法を提供しています。

このうち「Lequa-Dry」は、以下の2タイプをラインアップしています

また、以下の設備により、創業当初から培った高精度な真空蒸着技術で加工しています。


処理方法 ニデックの製品ラインアップ 最大加工サイズ 特長・用途
乾式法
(ドライ)

・真空蒸着
Lequa-Dry (レクアドライ)
スタンダード 
・1000 × 600 × 70 mm ・低反射
・特性のカスタマイズ可能
【用途】
  シート、フィルム、
  レンズ、成形品、
  各種モニターなど
Lequa-Dry (レクアドライ)
ハイグレード 
・高耐久物性
・低反射
・特性のカスタマイズ可能
【用途】
  シート、フィルム、
  レンズ、成形品、
  各種モニターなど
湿式法
(ウェット)

・ダイ
Lequa-Wet (レクアウェット) 2種類のPMMA平板のみ
・1400 × 1200 × 2 mm
・1400 × 1200 × 3 mm
・大面積
・安価
【用途】
  テレビガード、
  大型モニターなど
Lequa-Dry(レクアドライ)片面反射率特性

Lequa-Wet(レクアウェット)片面反射率特性




5. お問合せ

ARコートは、製品の性能や品質に関わる技術ですが、その性能を引き出すためには、処理方法から仕様まで、最適な選択が必要となります。
ニデックでは、ARコートの豊富なラインアップと技術的な知見をもとに、お客様のニーズに合わせたご提案を行っております。
ARコートに関するご相談やご質問がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
内容を確認のうえ、ご要望に最適なご提案をさせていただきます。

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