「AR コート」は、「Anti-Reflective coating」の略語で、プラスチックやガラスなど、素材の表面に映り込む反射光を低減させる機能を持つ膜のことです。
日常生活の中で、テレビやPCモニターの画面が光を反射して眩しい…画面が見にくい…と思ったことはありませんか?
この反射光の問題を解決するのが、AR コート(反射防止膜) と呼ばれる技術です。
液晶モニターの前に、ARコートなし(左側)・ARコートあり(右側)の透明なアクリル板を置き、窓の白いカーテンの映り込み具合を比較した動画。
ARコートは光の干渉を利用しています。光は電磁波という波の一種ですが、下図のように入射光の波は、表面反射光(ARコート表面の反射光)と境界反射光(ARコートと基板の境界の反射光)の波で干渉しあいます。この時、表面反射光の波の山部と、ARコートを通して出てくる境界反射光の波の谷部を合わせ、打ち消し合うようにすることで反射防止性能が発揮されます。このコントロールは異なる物質の組み合わせと膜厚制御を行うことで可能となります。
ARコートの膜厚と聞いて、どれくらいの厚さを想像しますか?
ARコートの膜厚は、約100~300 nm(ナノメートル)※1 程度です。非常に薄い膜のため、薄膜(はくまく)と呼ばれています。また、ARコートの種類は一つの物質による単層や、複数の異なる物質による積層があります。複数の物質を組み合わせることで、より複雑な光学性能を発揮させることが可能になります。
※1 ARコートの膜厚の単位、nm(ナノメートル)の目安1 nm = 0.000000001 m(10の-9乗 m)= 髪の毛1本の太さ(約0.1mm)の約10万分の1 |
ARコートは、コーティングする材料によって反射率が変わるため、単層AR コートの材料と屈折率について解説します。例えば、ガラス基板上に一般的な単層ARコートの材料であるMgF2をコーティングした場合、ボトム反射率は約1.26%となります。
ボトム反射率において、最も低くなる値、0%にするには、n[材料]=√(n[空気]×n[基材])という振幅条件を成立させる必要があります。
これはガラス基材(n [基材]=1.52)、空気(n[空気]≒1)に対して、材料はn[材料]=1.23ということになります。n=1.23の屈折率をもつ材料であればガラスへの単層コートでボトム反射率が0%のARコートが対応可能ですが、n[材料]=1.23でARコートとして耐久性に優れた安定した材料は世の中に存在しません。
丁度良い屈折率の材料が全て存在するわけではないので、基材の屈折率に合わせて、いかにして存在する材料を組み合わせるかが性能のポイントとなります。
材料 | 屈折率 | |
単層ARコート | MgF2 | 1.38 |
SiO2 | 1.46 | |
その他組み合わせの ARコート |
Al2O3 | 1.60~1.70 |
ZrO2 | 1.90~2.00 | |
Ta2O5 | 2.10 | |
TiO2 | 2.20~2.30 |
人の目で認識できる波長は380~780 nmとされています。この中で人が一番認識できるのは550 nm付近(緑色の光)となります。ニデックのLequa-Dry(レクアドライ)スタンダードARコートは、基材の屈折率に合わせて、各種材料の組み合わせを行い、この550 nm付近の反射率が最も低くなるように設計したARコートです。
この他ご要望に応じて、可視域外の各波長に対応したARコートのカスタマイズ設計も可能です。
可視域に対応
Lequa-DryスタンダードARコートの特性
ARコートは、メガネやカメラレンズ、液晶ディスプレイ、スマートフォン画面のフィルム、車のメーターパネル、センサーカバーなどの表面、光ファイバーの端面など、光の反射が影響を与える様々な場面で活用されています。
ARコートについて、ご要望やご相談などございましたら、お気軽にお問合せください。
弊社で検討の上、ご要望に適したご提案をさせていただきます。
※全ての画像はイメージです。